なぜ、人事評価は納得できない評価になってしまうのか【人事評価=認知バイアスの塊】

目次

【質問】人事評価の内容に納得できません!なぜ、人事評価は納得できない結果になるのでしょうか?

人事評価に納得できません。上司は何もわかっていません。なぜこのような評価になるのでしょうか?

【回答】人事評価は認知バイアスの塊であり、正確な評価ができる人は限りなく少ないです。

人事評価は認知バイアスが起きやすい条件が揃っています。認知バイアスを深く理解したよっぽと優秀な評価者がかなり慎重に評価しない限り、正確な評価はあり得ません。人事評価については、一喜一憂しないことをお勧めします。

人事評価に影響がある認知バイアス

人事評価に影響がある可能性がある認知バイアスについて紹介します。

評価される側の認知バイアス

評価される側に作用する可能性がある認知バイアスを紹介します。「人事評価の結果が納得できない」と思ったら、まずはこれらの認知バイアスの影響がないか考えてみてください。

自己中心性バイアス

自己中心性バイアスとは、チームの中での自分の貢献度を高く見積もる傾向のことです。

自己中心性バイアスにより、ほぼ全ての従業員は自分の会社への貢献度について過剰に高く自己評価しています。そのため、多くの方が「自分が思っているより評価が低い」と感じてしまいます。

自己奉仕バイアス

自己奉仕バイアスとは、成功した場合は自分の力量によるもの、失敗した場合は環境のせいと考える傾向のことです。

自己奉仕バイアスにより、ほぼ全ての従業員は自分の成功を過剰に自己評価し、自分の失敗を過小に自己評価しています。

そのため、多くの方が

「こんなに成果を残したのに…」

「何も失敗していないのに…」

と感じてしまいます。

損失回避性

損失回避性とは、利得と損失による心理的効果を比較した場合、損失の効果が大きくなる性質です。

大抵の人事評価は、平均より上の評価と下の評価が均等に分かれる設計になっていると思います。平均よりも上であれば良い評価、下であれば悪い評価、となります。

ところが、人間は損失の方を大きく感じます。平均より10点高い評価をもらった喜びよりも、平均よりも10点低い評価をもらった時の悲しみの方が心理的な影響が大きいです。そのため、全従業員の心理的な影響を合計すると必ずマイナスになります。このようなカラクリで、「人事評価が納得できない」と感じる人が多数発生します。

ダニング・クルーガー効果

ダニング・クルーガー効果とは、能力が低い人ほど自己評価が高い傾向がある効果のことです。能力が低い人は正しい自己評価ができず、自分は優秀だと考えがちになります。

ダニング・クルーガー効果により、能力が低い人は自己イメージと人事評価の結果の差が大きくなり、不満を持ちやすくなります。

また、本当に能力が高い人はそもそも人事評価をそこまで気にしていません。なぜなら、本当に能力が高い人が「不当に低く評価された」と感じたら、迷わず転職をして適切な評価をしてくれる会社に移動するからです。人事評価に一喜一憂する暇があったら、適切に評価してくれる相手を探す方がよっぽど早いです。

評価する側の認知バイアス

以下、評価する側に生じやすい認知バイアスについて紹介します。

人事評価を実施する方はこれらに注意して人事評価を実施していただきたいです。

人事評価される側の方は、「人事評価する側にはこれだけ多くの認知バイアスが働いている可能性がある」ということを理解し、繰り返しになりますが人事評価に一喜一憂しないことをお勧めします。

ハロー効果

ハロー効果とは、人を評価するときに目立って優れた特徴があると、その人の全てが優れているとみなす傾向のことです。

大抵の人事評価はさまざまな項目について評価を行うようになっていると思いますが、ハロー効果の影響には十分気をつける必要があります。

例えば、何か大きな成果を上げた人を評価する場合、「実績」について高く評価するのは当然ですが、「挑戦」や「指導」といった項目については「実績」とは切り離して考えるべきなのですが、ハロー効果によって「実績」を高く評価したことにより「挑戦」や「指導」といった項目についても高く評価しがちになることがあります。

少数の法則

少数の法則とは、統計的に明らかに標本サイズが少ない場合でも、自分が見たものの一貫性や整合性を過信し、結果的に断片的な情報で物事全体を判断してしまう現象です。

上司は部下の全てを知っている訳ではありません。部下の業務の一部しか把握できません。それにも関わらず、自分が把握しているごく一部の情報で部下の全てを知っているかのように感じてします現象が、この「少数の法則」です。

「少数の法則」の影響を完全に排除した人事評価はあり得ないと言って良いでしょう。

利用可能性ヒューリスティック

利用可能性ヒューリスティックとは、思い浮かびやすい事象は起きやすいと判断する傾向です。

部下の人事評価を行う場合、その部下を思い浮かべて人事評価を行うと思いますが、その「思い浮かべる」という行為には「利用可能性ヒューリスティック」を誘発しやすい条件がそろっています。

思い浮かびやすい事象=よく起きる事象

と判断してしまう認知バイアスが「利用可能性ヒューリスティック」です。その部下について思い浮かびやすい事象を、その部下がよくやっていたこととして評価をしてします可能性があります。

確証バイアス

確証バイアスとは、自分が信じたことを裏付けようとする傾向であり、自分の考えを正当化するための情報ばかり探してしまう現象です。

人事評価を行う際に第一印象で「この人はこんな評価かな」と頭で思い浮かべることがあると思いますが、この行動は「確証バイアス」が生じやすいです。

「この人はこんな評価かな」と思った時点で、「こんな評価」に合わせた情報を収集してしまう認知バイアスが「確証バイアス」です。

感情ヒューリスティック

感情ヒューリスティックとは、好き嫌いによって判断が決まってしまう現象です。

人事評価は個人の感情ではなく業務の内容によって行うべきです。そんなことは全員わかっているのですが…実行するのは難しいです。なぜでしょうか?それは、「感情ヒューリスティック」という認知バイアスが働いているからです。

「感情ヒューリスティック」は「好き嫌いによって判断が決まる」という認知バイアスです。そして、認知バイアスは「心の錯覚」であり、どんなに努力しても避けるのは困難です。

気質効果

気質効果とは、物事を判断する際に、自分にとって心地良いか苦痛かというくくりで決断を下してしまう現象です。

人事評価は従業員の業務を評価することであり、評価するということは差をつけるということです。差をつけるのは、心苦しいですよね。自分が好きな人の評価を下げることができますか?難しいけど実行していると考えている人が多いと思いますが…「気質効果」の影響を完全に排除することはできません。

「気質効果」により、自分にとって心地良い行動、すなわち好きな人に良い評価を与えて嫌いな人に悪い評価を与えるといった行動を無意識のうちにおこなっている可能性は十分あります。

極端回避性

極端回避性とは、複数の選択肢が提示された場合に両端の選択肢ではなく、真ん中あたりの選択肢を選ぶ傾向です。

人事評価は、従業員の業務についての評価を行う場です。評価をおこ・舗は、差をつけるということになりますが、なるべく差をつけたくないと考えてしまいませんか?その考えが「極端回避性」によるものと言えます。平均的な評価を好み、極端に良い・悪い評価を避けることにより、無難な人事評価が増えます。

決断疲れ

決断疲れとは、数々の決断を繰り返すことにより疲労が蓄積し、決断の質が下がる現象です。比較・吟味・決断という行為は思っているより疲れる行動です。

人事評価を決定するという行為は、決断の連続です。決断という行為は自分が思っている以上に疲れる行為であり、疲れが溜まると決断の質が落ちます。

疲れが溜まると理論的な判断が困難になり、本能的な判断を行いがちになります。この本能的な判断には、このページで紹介している多数の認知バイアスの影響が働きやすいため、人事評価を行うときに認知バイアスの影響が働きやすくなります。

持続時間の無視

持続時間の無視とは、過去の事象を思い出して良否の評価するときに、その事象の継続時間は無視されて、その事象から生じた瞬間的な絶対値の良否の度合いによって評価をする傾向です。

人事評価は1年間や半年間など決まった期間の業務内容を評価するものですが、その評価を行う際に「持続時間」をどれだけ評価できていますか?

人事評価を行う時はどうしても印象的な出来事に基づいて評価をしがちですが、「何かを淡々と継続する」という業績もとても大切な要素です。しかし、人間には「持続時間の無視」という認知バイアスがあり、継続について軽視しがちな傾向があります。

妥当性の錯覚

妥当性の錯覚とは、ごくわずかな情報からストーリーを作り上げて結論に至るときに、情報の量と質をほとんど考慮していないにもかかわらず、自分の結論に過剰な自信を持つ現象です。

人間は「ストーリー」が大好きです。例えば何か素晴らしい業績を上げたときに、その業績は明らかだったとして、その業績に至るプロセスについては全てを把握できていないことがあると思います。そんなときに「チームでディスカッションをして協力しながら努力をして業績を上げた」といったストーリーを勝手に想像して、そのストーリーに沿った評価をしがちな傾向があります。

単純接触効果

単純接触効果とは、繰り返し見聞きしたものに対して好みや親しみが増す現象です。

仕事でよく接する人とそうでない人がいると思います。よく相談する人もいれば、必要最低限しか相談しない人もいます。仕事をする上でどのようなやり方で行うかは人それぞれですが、接点が多いと親しみが増しやすくなります。この効果を単純接触効果と言います。

単純接触効果は本人の意識外で生じるため効果が絶大であり、広告などはこの効果をフル活用しています。いわゆる「ごますり上手」は単純接触効果を活用していると言えます。

ピークエンドの法則

ピーク•エンドの法則とは、記憶に基づく評価はピーク時と終了時の評価でほとんど決まる現象です。

人事評価を行うときは記憶に基づいて行うと思いますが、人が過去の記憶を思い出して評価するときは、「ピーク時」と「終了時」の印象によりほとんど決まることが明らかになっています。この現象を「ピーク・エンドの法則」と言います。

ピークエンドの法則の有名な実験として、病院の治療の痛みに関する調査などがあり、上記の「持続時間の無視」とセットで人間の記憶に基づく評価のいい加減さを明らかにしています。

フォールスメモリ

フォールスメモリとは、実際に見たり聞いたりしていないことを「見たことがある」「聞いたことがある」と考えてしまう現象のことです。「虚偽記憶」「虚記憶」とも言います。

人事評価は自分の記憶に基づいて行いますが、人の記憶は誤りが含まれることがわかっています。これを「フォールスメモリ」や「虚偽記憶」と言います。

一般的なイメージでは、人間の記憶は「頭の中に格納されていて、必要に応じて取り出してくる」のような形で記憶されていると考えがちですが、実際は「必要に応じて記憶を毎度作り直している」といった表現のようが正しいようです。そのため、自分では「絶対にこうだった」と疑いなく考えていた事象が客観的な証拠などによって覆されることがよくあります。具体的な例としては犯罪の捜査などでこのような事例があります。

返報性の原理

返報性の原理とは、人から何か施しを受けた際、ポジティブな行動で返さなければいけないと思う傾向です。

人事評価は業務内容で評価すべきであり、その個人が評価者に対してどのような接し方をしたかで評価すべきものではありません。しかし、人間は何かを与えられるとお返しをしたくなる性質があり、これを「返報性の原理」と言います。

部下からのごますりなどで良い思いをした人は、無意識のうちにその部下に良い思いがするようお返しができるような行動をしてしまい、それが人事評価につながることがあります。

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